text by Hiragi
edit by GAMEZINE
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あと一歩のその先へ
“友”と挑む世界の頂
鋭い読みと的確な判断でチームを指揮し、ZETA DIVISIONの頭脳とも言える存在である日韓ハーフのプロゲーマーFiNN。時にサポートでありながらキルを重ねるその姿はファンを惹き付けた。
世界最高峰の舞台『オーバーウォッチ・リーグ』準優勝の経験を糧に、挑むは新たな舞台『オーバーウォッチ チャンピオンズ・シリーズ』。もはや世界大会と言っても過言ではない強さを誇る韓国地域で準優勝を2回、アジア3位を3回獲得するも、未だこの目で見ることができていない優勝の景色。その道のりに、どんな物語があったのか。そして、まだ見ぬ世界の頂点への道筋を彼はどう描くのか。
Photo Kanta Nakajima / Text Shuji Oshima / Edit Kyoko Shiina
※本文は2025年7月22日に発行したGAMEZINE Vol.32に掲載されたインタビューです。eスポーツマガジン「GAMEZINE Vol.32」の購入はこちら

Vol.32
韓国・ソウル、eスポーツの街
CLZ / FiNN インタビュー
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ゲームと共に成長した幼少期
『オーバーウォッチ』の虜に
――いつからゲームを始められたのでしょうか。
赤ちゃんの頃からゲームをプレイしていたんじゃないかってぐらい、幼い時からゲームをプレイしていました。日本に住んでいる時は『ポケットモンスター』シリーズや『大乱闘スマッシュブラザーズX』、あとダンボール戦機が好きだったので『ダンボール戦機W』をしていた記憶があります。韓国に住んでいる時は、初めてのシューティングゲームでもある『クレイジーシューティング バブルファイター』をプレイしていました。実はこのゲームでも結構強い方で、大会やイベントに参加して景品を貰ったこともあるんですよ。
――幅広くゲームをプレイされてきた中で、どのように『オーバーウォッチ』と出会い、プロゲーマーになったのでしょうか?
小学校の頃はサッカーを、中学生の頃は塾に通って勉強をしつつ、友達と『リーグ・オブ・レジェンド』を一緒にプレイしていました。ある時『オーバーウォッチ』がリリースされたと聞き、プレイし続けていたら、プロチームのトライアウトに誘われました。両親に相談したら、母には少し止められてしまいましたが、ゲーム好きの父は「1回やってみたらいいんじゃない?」と後押ししてくれたんです。その後押しもあって、中学校3年生の時にプロゲーマーになりました。ちなみに、父も『オーバーウォッチ』をプレイしていて、ランクはダイヤだそうです。
数々の戦友と出会い
念願の舞台『オーバーウォッチ・リーグ』へ
――親子で『オーバーウォッチ』が好きだったとは驚きです。次に、初めて所属したチームについて教えてください。
当時有名だったMVP Spaceというチームです。初めてプロゲーマーとして出場した大会は緊張したものの、自分のパフォーマンスをかなり出すことができたので最初の大会にしては良かったなと思っています。次に、『オーバーウォッチ・リーグ(以下、『OWL』)』に出場しているチームのアカデミーチームに入ろうと考えていたんですが、当時から仲が良かったProperに「ちょっと待ってて」と言われ信じて待っていたら、Properも所属していたO2 Blastへの所属が決まりました。
※『オーバーウォッチ・リーグ』
2018年からスタートしたBlizzard Entertainmentが主催する『オーバーウォッチ』の国際的なプロeスポーツリーグ。都市名を冠したフランチャイズ制を採用しており、出場していた全てのチームに都市名が与えられていた。2023年をもって現在は終了している。
――O2 Blastとして『オーバーウォッチ・コンテンダーズ』に出場し、3度も優勝されました。
当時のO2 Blastには、DPSが上手いと言われていたProperとPELICANに加え『OWL』を経験していたNekoやKalios、Yakpungなどが揃っていて、自分もそのチームに合っていたので優勝できたと思います。次の年の『オーバーウォッチ・コンテンダーズ 2021 Season 1・Season 2 : Korea』では、JunBinやMAXなど当時『OWL』にまだ出場できない選手の中で上手いと言われていた選手が集まっていたチームだったからこそ、すごい強かったのかなって考えてます。
※『オーバーウォッチ・コンテンダーズ』
『OWL』の下位リーグ。この大会で活躍すると『OWL』に出場しているチームからスカウトされる事がある。
――そして、2021年にはSan Francisco Shockに移籍されましたよね。その時の思いを教えてください。
ずっとProperと一緒に『OWL』に出場するのを待ちわびていたので、やっとかと思いつつ、とにかく出場できることが楽しみで、全部勝ってやるという心意気でした。
――楽しく自信を持って出場することは大事なことですね。San Francisco Shockは『OWL』を2連覇したチームとして有名だと思います。
そうですね。他にも、San Francisco Shockは2021年から2022年のレギュラーシーズンで1回も負けずに20連勝という『オーバーウォッチ』の歴史の中で一番の連勝記録を持っています。自分も試合に出場していたので、この時は「リーグでも普通に勝てるな」って思っていました。
――20連勝ですか・・・!それは歴史的快挙ですね。初めてのシーズンであった『OWL 2022』の結果についてどのように思っていますか?
『OWL 2022』では準優勝を3回、4位を1回という結果で、最初のシーズンにしては良い成績を残せたと思っています。ただ、優勝できなかったのは悔しかったですね。
――最後のシーズンとなった『OWL 2023』はいかがでしたか?
メンバーがガラッと変わり、ほとんどが『オーバーウォッチ・コンテンダーズ 2021』に一緒に出場していた元O2 Blastのメンバーになりました。最初は、「このチームが優勝し続けるんじゃないか」と言われていたんですが、練習する環境が整っておらず、メンバー全員が韓国の自宅から当時アメリカで行われていた『OWL』に参加することになってしまったんですよね。チームメンバーと充分に話し合う時間も取れなかったり、高いpingの状態での参加となったりで、自分たちのパフォーマンスを100%発揮することができませんでした。
初の“国”を背負った戦い
世界各国の強豪に挑む
――2023年には『オーバーウォッチ ワールドカップ』もありましたよね。FiNN選手は日本と韓国のハーフのため、どちらの国の代表になるか選択できたと思いますが、なぜ韓国代表として出場されたんですか?
実は『オーバーウォッチ ワールドカップ』の韓国代表が決まる前に、日本代表のゼネラルマネジャーをしていたみずイロさんに「日本代表で出場できますか?」って聞いたんですよね。そしたら「このタイミングだと日本代表のメンバーの選出が終わっているのでメンバーに入れるのは難しい」って言われて、それなら韓国代表として出場しようと決めました。
――FiNN選手にとって初めての『オーバーウォッチ ワールドカップ』となりましたが、どんな大会になりましたか?
『オーバーウォッチ ワールドカップ』自体の結果は4位だったんですが、これまで名前や顔を知らなかった選手と試合ができて、楽しかったですね。
一度はよぎった引退
仲間に誘われ新たな舞台へ
――『OWL』は2023年シーズンを最後に終了し、2024年1月に『オーバーウォッチ チャンピオンズ・シリーズ(以下、『OWCS』)』の開催が発表されました。この発表を聞いた時の心境について教えてください。
『OWL』が終了した瞬間、正直「『オーバーウォッチ』終わったな」って思いました。なので、プロゲーマーを引退して何しようかなと考えていたんですが、新しく『OWCS』が始まることが決まってNekoから「From The Gamerとして『OWCS』に出ようよ」って誘われたので、プロゲーマーを引退せずにこのチームに入りました。
――Nekoコーチとはずっと仲がいいのですね。ちなみに、チームメンバーについてはいかがでしたか?
仲いいメンバーが集まったなって思いましたね。実はチームメンバーのFloraとはMVP Spaceに所属する前からの友達なんです。MVP Spaceに所属する前に「小さい大会に一緒に出よう」って誘われていたんですが、その大会の1週間前にMVP Spaceから連絡が来てしまったので、出場しないで逃げました(笑)。
新天地ZETA DIVISION
狙うは”世界一”の称号
――そんなFrom The GamerのメンバーにFearless選手が加わって、ZETA DIVISIONとして『Esports World Cup 2024』に出場されました。どんな思いをもって臨みましたか?
Fearlessが7、8年続けていたプロゲーマー人生の最後の大会という事で、とにかく勝たせてあげたいという思いが一番強かった大会でした。最終日、会場に向かうバスの中でFearlessと「最後の最後だよ。人生最後の大会頑張ろう」みたいに色々話していました。惜しくも3位という結果で終わってしまいましたが、プロゲーマー人生最後の大会に一緒に出場できたことがとても嬉しかったです。
――そして『OWCS KOREA 2025 Stage 1 – SEEDING DECIDER』Crazy Raccoon戦のKING’S ROW防衛の時、ジュノからゼニヤッタにピックを変更し、トレーサーに圧をかけ続け、3-1でCrazy Raccoonに初勝利を収めました。ゼニヤッタに変更した理由について教えてください。
その時、相手のタンクがJunBinで、ジュノだとやることが何もなかったのと、第2ポイントの最後の部分と第3ポイントはゼニヤッタが強いマップなので、ゼニヤッタに変更しました。正面にいてもダイブされてしまうので、サイドに行ってフランクしたり、相手が来るのを音を聞きながら待ち、動きを読んで「来そう」っていうタイミングでバーッて撃ってました。そしたら、サイドから来たトレーサーやキリコをキルできて守りきれた感じです。同じ日本チームでもあるCrazy Raccoonに勝てたのは嬉しかったですね。
――サポートながらもキルする所はとてもFiNN選手らしいプレイですね。FiNN選手が思うZETA DIVISIONのチームとしての強みはどんなところですか?
友達を集めてやっていますってぐらい仲が良いところと、他のチームよりもカウンターが得意なところが強みですね。ですが、『オーバーウォッチ』では先に仕掛ける方が強いと思っているので、その練習を今はしています。
――「仲の良さ」が一つの武器になっているほど、本当に仲良しなチームなんですね。
本当に友達みたいに仲が良いんですよ。毎日面白いことばっかりです。良くあることで言えば、ゲーミングチェアに何度も強くよりかかって、後ろにおもいっきし転げ落ちる事が週3回ぐらいあります(笑)。FloraとMobydikがよく落ちるんですが、特にFloraが落ちることが多いです(笑)。
――面白いことが尽きないと、毎日が楽しくてしょうがないですね。最後に韓国にまだ来たことのないファンの方にメッセージをお願いします。
韓国の人は日本の文化やアニメとかが好きなので、心配せず来ていただけたらなと思っています。それに、食べ物も結構辛いものとか意外なものがたくさんあって美味しいので。自分は日本の食べ物の方が好きなんですけど(笑)。韓国でできることもたくさんあるし、楽しく遊べると思うので、ぜひ韓国に来て『オーバーウォッチ』の試合も見て、遊んでみて欲しいですね。
――ありがとうございました。ファンの方にはぜひ韓国に来て、韓国旅行を楽しみつつ、現地の熱量を感じながら応援していただきたいですね。そして、今後のZETA DIVISIONの進化とFiNN選手の活躍を楽しみにしています。
FiNN
ZETA DIVISION『オーバーウォッチ』部門所属。2003年生まれ。日本と韓国のハーフで生まれは愛知県南知多町。そのため、「南知多の英雄」として日本のファンに親しまれている。得意なヒーローはゼニヤッタ。よく食べる韓国料理はチェユクポックム。
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