text by mizuiro
edit by GAMEZINE
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『Apex Legends Global Series(ALGS)』では多くのドラマが生まれてきた。昨年のChampionshipで北米の注目チームであるTSMが逆転優勝するというのもその一つである。公式キャスターはそのドラマ、一つひとつを丁寧に言語化して視聴者に届けていく水先案内人。今回は公式キャスターを務める大和周平さんに『ALGS Year 4 Split 1』の Pro Leagueの振り返りと、この後開催される世界大会Playoffsの注目選手を語っていただいた。
※本文は2024年4月25日に発行したGAME STAR Vol.27に掲載されたインタビューです。フリーマガジン「GAMEZINE Vol.27」のダウンロードはこちら
公式キャスターから見た選手たち
――公式キャスターである大和さんから見た選手たちの凄さを教えてください。
『ALGS』に出場する選手たちは、ライブ配信に映ってる以上に多くの判断をしていて、視聴者に見えているもの以上に多くの情報量があるので、うまく精査して選択をしている選手たちはやっぱり凄いです。例えば、チャンピオンを狙いに行くっていうのが正しい判断じゃないシーンがあったりするんです。ここはあえて勝負を降りて、その中で最善の順位を取りに行く選択をしたり。バトルロイヤルの場合、その場その場で最善の選択肢を取っていく必要があるんです。このゲームジャンルは、時間とかシチュエーションによって、再現性がないのがすごく難しいと思います。ちょっとオタク的なところですけど、ここが普段のランクやカジュアルと違うすごい面白いところで、素直に選手たちがすごいと思うのはそこですかね。
――取捨選択が大事というのはバトルロイヤルゲームの難しくも面白いところですよね。大和さんが『ALGS』で実況されるときに特にこういう所を視聴者に知って欲しいと思ってお話していることがあれば教えてください。
チャンピオンを獲れるチームって結構運によって決まったりすることが多くて、運を引き寄せるためにそういう場所を最初から取っとくとかもあるんですけど、どうしても取れなくなってしまったときに、1位とか2位じゃなかったら、応援しているファンにとっては悲しい目線になっちゃうことがあると思うんですけど、「5位とか6位のフィニッシュでも選手たちは最善を尽くした上でこの試合を終えたんだよ」っていうのは何とかして伝えたいなって思います。
10位とか11位とか見え方としては、ちょっと低いんじゃないと思っちゃう順位でも、最善のプレイはやりきった、もしくはやりきれなかったけど、こういうプレイをしたかっただろうっていう、選手たちの心境も踏まえて伝えたいなとは思いますね。
特にPro Leagueのように長いシーズンで、且つ、Regional Finalもある場合は、言っちゃえば1位だけが花形じゃなくて、ちゃんと良い順位を取っていくってことがすごく大事なんです。
色々なものを背負ってる上で、瞬時に判断を求められますし、選手たちがどれくらい頑張って来ているのかみたいな所は良く分かっているつもりですので、それを視聴者に伝えたいなと思います。
大きな変化があった『ALGS Year 4』
――ありがとうございます。大和さんのALGS愛を感じます。先日まで行われていた『ALGS Year 4 Split 1 Pro League』の振り返りをお願いできますか?
『ALGS Year 4』が始まるタイミングで多くのチームにメンバー変更がありました。「みんなの考えた最強のチーム」っていうメンバーが揃ったFNATICもできましたし、今まで長く組んでたタッグが解消されて、今までのチームメイトとの練度だったり、関係値をリセットして、改めてもう一度チャレンジし直すみたいな、そういうシーズンだったのかなって思います。
どうなるんだろうって思っていたチームも「意外とこの選手とこの選手ってシナジーあったんだ」って思ったり、選手一人ひとりの人柄もすごくよく知れた『ALGS Year 4 Split 1 Pro League』だったかなと思います。
――特に見ていて面白かったチームはありますか?
それでいうと、FNATICはちょっと思った仕上がりと違ったんですよ。この3人で世界を取るって言って組んでいるはずなので、もっと堅い感じなのかなと思っていたんですよね。YukaF選手は元々ワチャワチャ楽しみながらもプレイは最強みたいな感じだったので、チームの雰囲気はどう変わるんだろうなと思ったんすけど、意外と3人結構ちゃんとおチャラけていて(笑)ちょっとイメージと違いました。良い意味で裏切られましたね。
――FNATICのプレイ面はどうでしょうか?
意外だったのは、YukaF選手からLykq選手にメインのIGLが変わったっていう点ですね。「Lykqは過小評価されている」ってSatuki選手やYukaF選手も言っているぐらい上手いプレイヤーで、僕も設定とか感度とか動画を見たりして研究してるんですけど、あんなに冷静に端的に喋れるっていうのは才能だと思いますね。実際に混戦中の処理する情報が多い場面に立ち会ってみてわかるのは、あれは才能だなって。競技シーンの経験的にも、YukaF選手とSatuki選手と比べても短い方なんですけど、前回のYukaF選手のIGLよりも前半中盤のミスとか、ちょっと失敗して終わるみたいなのが少なく、かなり安定しているイメージです。YukaF選手が終盤でかなり積極的にコールしてるので、以前通り爆発力を感じます。やっぱり終盤のファイトではYukaF選手とSatuki選手が鍵になってるなっていうイメージですね。
――FNATIC以外はどうでしょうか?
それでいうとHAOですね。HAOは多分上位8チームの枠だと、個人能力・ファイト力とかだと、たぶん劣っていると思います。結構Apex Legendsの競技シーンでは、3人で一緒に動くっていうのはすごく大事です。個人の打ち合いより、3人がどれくらい息を合わせられるかとか、何があっても3人で一緒に入れるかどうか、死ぬときも倒れるときも一緒みたいな、そういう動きができればいいんですけど、HAOはそれができるんです。IGLは5CG選手なんですけど、1位や2位になれなかった時、その場における最善を選べるんです。良い意味で夢見ない。「ワンチャンチャンピオンあるかも」よりも目の前の確実性を選べるIGLなんです。21年シーズンとか20年シーズンから多分3年ぐらい、5CG選手とwqtagashi選手は一緒にチームを組んでいると思います。そこにサポートが上手いRight選手が入って、綺麗にフィットしたことにより今シーズンは以前よりも良くなったんじゃないかと思います。またセーフゾーンに入るタイミングとかも、以前より圧倒的に良くなってたりして、時間帯によって強いエリアを取る判断力が上位勢と引けをとらないぐらい上手くなってるっていうので多分今年一番伸びてるチームだと思います。世界の活躍が楽しみなチームです。
もう1チームお話すると、KINOTROPE gamingを注目チームとして挙げたいです。以前から人気も実力もある注目のチームの一つで、前評判だと「さすがに世界行くでしょ」っていうチームが『ALGS Yaer 4 Pro League』の開幕週に1点しか取れなかったんですよ。ほぼ最下位ですね。視聴者からは「本番環境結構きついのか?」って言われていて、でもそこから最終的にはFNATIC、REJECTに続いて3位で世界大会であるPlayoffsへの出場を決めました。1ttapy選手って火力あるイメージはあるんすけど、実はサポートが上手いプレイヤーで、逆にMia.K選手はガンガン攻めるタイプなんですけど、最初の週はちょっと硬くて、Mia.K選手がセーフティにプレイしすぎたんじゃなかと思っています。それを振り切れたのが3位になれた要因なのかなとは思っています。また、世界的に見てもファイト力があるチームなのでPlayoffsでも活躍できるチャンスがあると感じます。この先とても楽しみです。
世界大会Playoffsで日韓チーム活躍できるのか?
――Playoffsのお話も出てきたので、Playoffsで活躍するであろう日本と韓国のチームを教えてください。
日本のチームでいくとRIDDLEですかね。IGLを務めるsaku選手は、1大会を除いて世界大会で決勝まで行っているので、彼のIGLであれば今回も決勝まで行けると思います。しかも前回と違うのはキルを取って終わるっていう選択肢があることです。前のチームだとその選択肢がなかった様に感じるんですけど、今回のRIDDLEにはMeltsteraさんが入って、そういった動きもできるようになったのは大きいんじゃないかと思います。また、現在のメタ環境のコースティックはゆきお選手がすごくうまいので、選択肢の幅が広がっていて決勝でも活躍してくれるんじゃないかと思います。
あとはPro Leagueで日韓最高順位だったREJECT WINNITYですね。結構構成に癖があるので、世界大会の練習試合でどれくらい環境に合わせてくるのかが楽しみです。実績で考えるとRIDDLEとREJECT WINNITYが注目チームになると思います。逆にFNATICはどうなるか、まだ予想できないです。
――それはなぜですか?日韓 Pro Leagueですと上位に入るチームです。
世界大会になるとセーフゾーンの中に最速で入っていく“中ムーブ”をするチームが増えて、試合全体で中ムーブ環境になります。FINATICのIGLを務めるLykq選手は、過去にその環境の中で外ムーブをして苦戦していた印象があります。つまり現在のFNATICは中ムーブ環境の経験が少ないんです。逆にその課題さえクリアできれば上位を狙えるチームではあります。
――世界大会ではセーフゾーンが閉じる間際に入っていく“外ムーブ”よりも先にセーフゾーンの中に入っていく“中ムーブ”を選択するチームが多いのには何か理由があるんですか?
そうですね。外ムーブはセーフゾーンの中に入るタイミングで不確定要素が多く、グループリーグ制なので組み合わせによっては下りるランドマークとかも変わることもあるので、再現性的には内側に入っていた方が順位が安定しやすいんですよ。
過去の優勝チームであるDarkZeroとかも外ムーブだったんですけど、やっぱ直近の世界大会では中ムーブに切り替えています。こういった環境はゲームが作り上げるというよりか、出てるチームが作り上げていくものなので、これまで日韓のPro Leagueと世界大会のPlayoffsで環境の違いは今回もあると思います。
――大和さんと言えば、公式キャスターとしての活動以外にも大会を開催したり、YouTubeで情報発信されたりしていますよね。
そうですね。選手たちのオフシーズンとALGSとかPlayoffsからPro Leagueが始まる間とか、Championshipが終わって次の大会が始まるまでとかの間に、『IGL Masters』という大会をやらせてもらってます。これはリーダー枠にIGLをお呼びしているんですけど、実際にはIGLしてもらわなくても良いんです。そういうちょっとエンタメ寄りで競技ファン向けの大会を開催しています。 次やるかちょっと全然決まってないですけど。
最初やるきっかけは世界大会が終わったタイミングで大会やったら面白そうだぞっていう流れがあって、思いつきで上司の平岩さんに「大会やりたいんですけど」って相談して、たしか2週間か、3週間後には開催していたと思います。もう今やらないと絶対数字は伸びないと思ってたんで、そのときだから全部で5万人ぐらい視聴する大きい大会になりましたね。当時はストリーマーさんのイベントが主流だったんですが、競技シーンの一つのイベントとして受け入れてもらえたのも嬉しかったです。
最近はYouTubeでIGL Mastersっていうチャンネルを作って、そこで攻略動画を中心に投稿しています。特に競技シーンファン向けに動画を上げたりとか、あとフィッシャーズさんとのコラボもさせていただきました。今後は初心者向けの動画をやっていきたいと思ってます。このYouTubeチャンネルも僕の思いつきで上司の平岩さんに「やりたいです!」って言って作ることになりました。
――こういった活動をされる公式キャスターの方って珍しいですよね。
全然深く考えたことなくって「楽しそうだからやっちゃおう」ってなっちゃったんですよね。
――今後の活動についてお話できる範囲で教えてください。
専業のキャスターなら多分複数タイトルを担当しないと結構しんどいと思うんですけど、今自分が一番胸張って好きって言えるゲームタイトルに1回骨を埋めるみたいな感じで頑張ってみたいなっていうのは思ってたりします。
関わっているゲームタイトルでまだコンテンツの終わりを見れていないんですよね。終わりを期待するわけじゃ全くないんですけどでも、終わりまではやれることをやりきりたいって思ってます。それこそキャスターっていう枠組みに関係なく関わっていきたいです。
――今後の活躍に期待しています。ありがとうございました!
【プロフィール】
大和 周平(株式会社ODYSSEY所属)
Apex Legends公式トーナメント『ALGS』の公式キャスターで自身も『ALGS Challenger Circuit』に出場。2017年には有名格闘ゲームキャスターのアール氏の育成プロジェクト「ACTP」に参加し、現在は株式会社ODYSSEYに所属。